みんなの休憩中、早めにドリンクなんかを渡し終わった私は、部室で部活の日誌を書き始めた。練習メニューなんかをこまめに書いていると、意外と時間がかかるから、私はこういう空いた時間を有効に利用する。・・・うん、偉い!なんて、自分で自分を褒めていたら、誰かが部室に入ってきた。


「・・・あ、鳳くん。お疲れ。どうしたの?」

「ちょっと、ジャージを置いておこうかと思って。」

「そっか。」


それだけ言って、私はまた部誌に向かった。鳳くんも、ロッカーの方へ向かって行った。
しばらくして、部室のドアが開いた音を聞いてないことに気付き、ふと辺りを見渡すと、私の座っている席の後ろの壁に、鳳くんが凭れかかっていた。


「わ!・・・何してるの?」

「いやぁ。・・・それも、日吉意識なのかなぁって考えてた。」


鳳くんが指さした先には・・・。私の筆箱があった。


「・・・・・・それは言えない。」

「それじゃ、言ってるも当然だよ。でも、ちゃんでも、日吉のことをそんな風に思ったりするんだねぇ。」

「私でも、ってことは鳳くんも思ってるんだ?」

「アハハ、それは言えない。」

「じゃ、思ってるんだね。」

ちゃんこそ。」


お互いに、ハッキリ思ってると言えないのは、正直これは悪口みたいなものだから。
日吉の髪型は、まぁ特徴的って言うか、何て言うか・・・。よく、マッシュルームだとかキノコカットだとか、そんな風に悪く言う人も居る。
そこで、私の筆箱を見ると、何とも可愛いきのこの絵が描かれている。


「でも、カワイイよね、それ。」

「でしょ?」

「で、それを見て、日吉を思い出すの?」

「もう、いいでしょ、それは。」


私だって、日吉の髪型を悪く言う人は許せない。だって、私は日吉が好きだから。でも、何だかその悪口が、最近ではあだ名のように感じてしまって・・・。鳳くんみたいに、悪意なくそう思う人も居るみたいだし・・・。だから、きのこを見たり、その言葉を聞いたりするだけで、ちょっと可愛いと思うようになってしまった。
鳳くんと話しながら、そんなことを考えていると、また部室のドアが開いた。今度は・・・。話題の人物だった。・・・噂をすれば何とやら、ってやつね。


「おい、鳳。宍戸さんが探してたぞ。」

「え、宍戸さんが?・・・・・・・・・宍戸さんも、ちゃんがここに居るって知ってるだろうし。・・・あぁ、俺、怒られる〜・・・。」


少し怒り気味の日吉に、鳳くんはそう心配して、急いで出て行こうとした。・・・それにしても、私が居ると、なんで怒られるんだろう?理由はわからないけど、日吉の言い方からして、おそらく、宍戸先輩も怒っているのは間違いなさそうだ。


「そうだ!日吉。ちゃんが書いてるメニューの次、何だったか覚えてる?俺、ど忘れしちゃってさー。だから、日吉、頼んだよ!それじゃ。・・・これで、宍戸さんに弁解できる!」


鳳くんは、また独り言を言いながら、日吉を押して、半ば強制的に部室へ入れ、自分は出て行った。
・・・・・・って、日吉と2人きり?!しかも、鳳くんメニューがどうこうって、何か言ってたなぁ・・・。
日吉は、鳳くんに言われた通り、私の前に来て、机に両手を置いて、部誌を覗いた。


「どの次だ?」

「え?え〜っと・・・。これ・・・?」

「なんで疑問なんだよ。まぁ、いい。その次は・・・。」

「あぁ!ちょっと待って!メモするから。」


何となく、指さして言ったことに、早速疑われそうになったから、一応もっともらしく、私も筆箱からメモを取り出した。・・・あ、筆箱。いや、そんなこと日吉は気にしてないよ。だって、私たちは同じクラスだし、私の筆箱も1度くらい見たことはあるだろう。今更、気になんかしてないはずだ!
なんて、かなり自分に言い聞かせながら、私は前の椅子を指して言った。


「とりあえず、日吉も座って?」

「・・・あぁ。」


そう言いながら、日吉は筆箱を見てるような気がする。・・・いや、気のせいだよね?・・・いや、気のせいじゃないね。なんで見てるの〜・・・?


「どうしたの?」

「いや・・・。いいか、説明して。」

「うん、OK!」


さて、話も戻せたと思って、メモを見たら・・・・・・しまった!これも筆箱とセットで買ったんだった!つまり、またもや可愛い可愛いきのこ柄。


「・・・・・・。それ、好きなのか?」

「えへへ、まぁね。何だか可愛くて・・・。見てて癒されるし、お気に入りなの。」

「・・・そうか。じゃ、説明するぞ。」

「はい、お願いします!」


・・・よし!上手く誤魔化せた!
日吉が次のメニューを事細かに教えてくれて、忘れてはいなかったけど、本当に助かった。


「――と、そんなところか。」

「わぁ、ありがとう!すごく、助かりました!ゴメンね、休憩時間に。」

「大丈夫だ。それに・・・。」

「ん?」

「いや。・・・・・・・・・それに、ここなら涼めるしな。」

「あぁ、なるほど!冷房効いてるもんね。・・・それじゃ、そろそろ行こっか。」


私は筆箱とメモ帳、それに部誌を片付けた。それを見ながら、今日は、部誌にもきのこを描いておこうかなぁ、なんて思ったのは絶対に内緒だ。













『ひよ子』同様、やはり無理矢理感が否めませんね・・・(苦笑)。いや、でも、やっぱり、それを決めるのは皆様ですから。私はあえて何も言いません(←もう言った後だろ)。

あと、部誌にきのこを描くかどうかも、皆様にお任せします(笑)。真面目な部誌なら、止めておきましょう。跡部さんや監督に、不思議がられますから(笑)。
もし大丈夫そうであれば、「日吉に教えてもらった記念」として描いておくのもいいかもしれません。ただし、理由が知れたら、間違いなく今度は日吉くんに怒られると思います(笑)。

('09/11/21)